ダイナミックモーメントとは|関節モーメントから考える歩行周期における筋活動【知っておきたい歩行・動作分析の基本】

ダイナミックモーメントとは|関節モーメントから考える歩行周期における筋活動【知っておきたい歩行・動作分析の基本】

こんにちは!

理学療法士のヨシキです!

今回は、以前にまとめた関節モーメントとダイナミックモーメントの違いについて解説していこうと思います。

関節モーメントについての記事はこちらから👇

ダイナミックモーメントとスタティックモーメントの違い

以前の記事でもまとめましたが、スタティックモーメントを決定する因子は、当該関節の状態と当該関節より上の重量がどのように加わるのかによって決定します。

しかし、ダイナミックモーメントにおいては少し違いがあります。

ダイナミックモーメントとは、歩行などにおける運動中に生じる床反力ベクトルによって生じる関節モーメントのことを指します。

そのため、当該関節より上の重量だけで関節モーメントが加わるのではなく、床反力ベクトルが関節に対してどのように加わるのか考える必要があります。

※ダイナミックモーメント(後方重心)
※スタティックモーメント(後方重心)

例えば、上の画像は歩行時における股関節のダイナミックモーメントと立位時のスタティックモーメントを表しています。

まず、後方重心位における股関節のスタティックモーメントは、当該関節より上方の体幹が後方に倒れることで、外部モーメントとして股関節伸展が作用します。

そのため、内部モーメントとして股関節屈曲が働くこととなります。

しかし、後方重心における股関節のダイナミックモーメントでは、床反力ベクトルに対して股関節が後方へ移動してしまいます。

そのため、外部モーメントとして股関節屈曲が作用し、内部モーメントとして股関節伸展が作用することになります。

このように、スタティックモーメントとダイナミックモーメントでは類似している部分がありますが、モーメントの加わり方が違う場合があるということを理解しておきましょう。

歩行周期における股関節モーメント

IC(イニシャルコンタクト)

ICでは、遊脚下肢が身体の前方で床面に踵接地を行うため、床反力ベクトルが股関節の前方を通過します。

そのため、外部モーメントとして歩行周期で最大の股関節屈曲モーメントが作用します。

つまり、股関節伸展筋である大殿筋などは伸張位となるため、内部モーメントとして股関節伸展モーメントが作用します。

ここで間違いやすいのが、後方重心位であるときに伸展モーメントが減少してしまうと考えてしまうことです。

スタティックモーメントでの後方重心では内部モーメントとして股関節屈曲が過剰となりますが、ダイナミックモーメントが発生するICでは、床反力ベクトルに対して股関節が後方へ移動するためモーメントとの距離が延長してしまいます。

それによって、股関節伸展モーメントは減少ではなく、過剰な状態となってしまいます。

その他に伸展モーメントを増加させるパターンは、骨盤の後方化・股関節屈曲・骨盤前傾位などが考えられます。

因みに、この相で伸展モーメントをつくれない、つまりは股関節屈曲角度の不足は、膝関節屈曲や足関節底屈を不足させ、衝撃吸収作用が機能しなくなってしまいます。

PSw・ISw(プレスイング・イニシャルスイング)

次に、立脚期を飛ばしてPSwとISwについて解説します。

この2つはをICの次にもってきた理由としては、モーメントの働きが真逆であるためです。

つまり、この相では股関節に対して床反力ベクトルが後方を通過するため、内部モーメントとして股関節屈曲モーメントが作用します。

また、この屈曲モーメントを増加させる因子としては、骨盤の前方化・質量中心の前方化・股関節伸展・骨盤後傾などが考えられます。

前額面上での働きとしては、反対側下肢へ身体重心が移行するため外部モーメントとして股関節外転モーメントが発生します。

そのため、外転モーメントへのブレーキとして股関節内転モーメントが内部モーメントとして働きます。

LR(ローディングレスポンス)

この相は、IC続きなので外部モーメントとして股関節屈曲モーメントが発生しています。

また、反対側下肢は遊脚期へ移行するため股関節内転モーメントと内旋モーメントが発生します。

そのため、骨盤・体幹の安定化のために内部モーメントとして股関節外転モーメントが最大に作用します。

この相でよく起こる異常歩行としては、トレンデレンブルグ歩行が挙げられます。

これは、過度な股関節内転モーメントによって反対側の骨盤の落ち込みを引き起こした状態です。

つまり、中殿筋筋力不足によって内転モーメントが過剰になるとともに、骨盤・体幹の安定性が欠落してしまいます。

MSt(ミッドスタンス)

この相では、床反力ベクトルが前半相では股関節前方を通過し、後半相にかけて股関節後方を通過していきます。

しかし、この相での股関節屈曲・伸展筋群の働きは必要ないとされています。

なぜかというと、この相で発生した股関節屈曲から伸展モーメントへの移行は、反対側遊脚下肢の振り出しの勢いによって受動的な股関節伸展が生じるためです。

つまり、LRで関節の安定性が得られれば、自然と矢状面上のMStは筋活動なしに得ることが可能ということになります。

前額面では、LRで発生した内転モーメントが引き続き発生しているため、外転筋群が働きます。

TSt(ターミナルスタンス)

この相では、身体重心が前足部へ移動し、床反力ベクトルは股関節後方を通過します。

そのため、股関節屈筋に内部モーメントが生じるように思われますが、腸腰筋などはほとんど働かず、大腿筋膜張筋前部線維が働きます。

股関節屈筋が働かない要因としては、MSt同様の理由と考えられ、腸骨筋を遊脚期であるISwで使用するためにこの相では、張力向上を目的に予備伸張させることも考えられます。

少し話は逸れますが、この予備伸張がどういうものかについて簡単に説明します。

元々人間は、走ったり、跳んだりする際、地面に対する自身の体重を衝撃吸収機能で受け止め、元の状態に跳ね返す能力を備えています。

これは、伸張–短縮サイクルストレッチショートニングサイクルと呼ばれています。

筋肉はある程度の張力をもった状態の方が、パワーの発揮がしやすいです。

そのため、TSt〜ISwにかけてストレッチショートニングサイクルが作用することで効率よく股関節屈筋を働かせることが可能となります。

話を戻して前額面について説明します。

前額面では、LRから引き続き内転モーメントが発生していますが、TStに移行するにつれ内転モーメントは減少していくため、大腿筋膜張筋前部線維のみの収縮で拮抗させることが可能となります。

出典ーGehen verstehen:Kirsten Gotz-Neumannー

歩行周期における膝関節モーメント

最後に膝関節モーメントについてですが、前額面・水平面の解説は足部の解説も必要なので矢状面のみ解説します。

下の画像を見ていただくと早いですが、膝関節は歩行周期に2度屈曲モーメントが発生します。

これをダブルニーアクションと言います。

このダブルニーアクションの役割としては、膝関節屈曲による衝撃吸収作用と振り出しのクリアランス確保で、屈曲はLRとPSwで生じます。

ICでは、床反力ベクトルが膝関節前方を通過するため、膝関節伸展モーメントが働きます。

次に、LRに向かって足部のヒールロッカーが作用することで床反力ベクトルが膝関節後方へと移動するため膝関節屈曲モーメントが発生します。

MSt〜TStでは、反対側下肢が前方へ振り出され前方推進力が発生することで、観察肢の膝関節前方を床反力ベクトルが通過し、伸展モーメントを発生させます。

そのため、立脚期においては膝関節筋力を必要とせず、膝関節伸展保持が可能となります。

最終的に、TStで伸展モーメントが最大となるため膝関節屈筋に内部モーメントが働きます。

TSt〜PSwにかけて、荷重が反対側に移行し、観察肢の足関節底屈によって床反力ベクトルは膝関節後方を通過し、膝関節伸展に内部モーメントが作用します。

出典ーGehen verstehen:Kirsten Gotz-Neumannー

参考書籍

まとめ

関節モーメントは基本的な内容ですが、力学的評価が姿勢・動作観察からできるようになると、力学的負荷における疼痛評価が格段にしやすくなると思います。

学生時代は、実習地でよく歩行周期ごとに働く筋肉を質問されました。

当時は、暗記したものを答えていることがほとんどだったのでパッと答えることは難しかったです。

また、よく間違ったのはTStで大殿筋が働くと勘違いしていたことです。

ただただ暗記するだけだと、なぜその場面でその筋肉が働くのかわかっていないため複雑に感じていたことも力学的考察が可能になるとあっさりと頭に入ってきました。

ポイントは、基本的に筋肉が働くのは伸張位に位置しているときと覚えておくといいですね。

歩行分析は理学療法と切っても切り離せないことなので、忘れないように押さえておきましょう。

それでは、今回はこの辺りでおしまいです!

今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います!

理学療法士 ヨシキでした!