周術期とムーアの分類
- 2021.05.22
- リスク管理
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こんにちは!理学療法士のマリモです!
今回は、術後のリハビリを行う上で頭に入れておきたい、ムーアの分類についてざっくりと解説していきます。
色々な方からお話を伺ったところ、学校によってはこの内容に触れていないところもあるみたいです。実習で術後患者さんを担当したり、急性期病院に勤めるうえでは少しでも頭に入れておくといいかなと思いますので、つらつらっと書いてみます。
- ムーアの分類とは
- 第1相:傷害期(異化期)
- 第2相:転換期
- 第3相:回復期、第4相:脂肪蓄積期
- まとめ
1.ムーアの分類とは
はじめに、ムーアの分類とは何か説明していきます。
ムーアの分類とは、大まかに説明すると、周術期における患者の生体反応や身体的変化を時期別で分類しているものです。アメリカの、フランシス・ダニエルズ・ムーアさんという外科医が提唱したもので、傷害期・転換期・回復期・脂肪蓄積期の4期に分かれています。
手術直後は、手術後~数か月にわたって生体内で様々な変化が起きます。ムーアの分類は、この生体内の変化を時期別で分類してあるため、これを理解しておくことで術後のリハビリ介入時、生じるべき反応と異常な反応の区別ができ、より安全にリハビリを行うことができます。
それでは、ムーアの分類を相ごとに見ていきましょう。
2.第1相:傷害期(異化期) 術後~3,4日
第1相の傷害期(異化期)についてです。
手術によって身体が傷害され、様々な生体機能が低下している時期です。生体反応としては、発熱・尿量減少・血圧低下・疼痛・腸蠕動運動の減弱・消失等々です。今回はその中でも、発熱と疼痛についてざっくり説明します。
~発熱~
まず発熱について、大まかに生理的発熱と合併症による発熱があります。
生理的発熱は、手術侵襲や麻酔によって術後に生じる、38.0℃台以上の一時的な発熱のことです。手術中は、全身麻酔によって自律神経経由で体温調節反応が阻害され、末梢血管の拡張や中枢性の体温機能調節が抑制されます。手術後は、全身麻酔が切れることで自律神経の反応が改善され、体温調節の抑制が解除されます。それによってサイトカインが放出され、低体温となっている身体を早く温めるため熱産生が生じます。簡単に言うと、手術や麻酔によってダメージを受けた身体が、元あった状態に戻ろうとする際に生じる熱です。術後1日目がピークとなり、その後は緩やかに解熱していきます(おおよそ3~4日程度)。
次に、合併症による発熱です。例を挙げると、手術部位の感染や尿路感染、肺炎などです。「術後1週間経っても熱が下がらない」「解熱していたのに、術後1週経ったところで急に熱が上がった」ということがあれば、術後感染などの合併症を疑う必要があるかもしれません。
ここでのポイントは、生じている発熱の原因がどこなのかを理解するという点です。例えば、術後の熱発が生理的発熱と判断できれば、術直後はほとんどの人に生じる発熱であるため、ある意味心置きなくリハビリができます。反対に、合併症による発熱と判断される場合、リハビリが全身や創部の治癒・回復の妨げとなる可能性が大きくなるため、リハビリよりも合併症の治療を優先するべき!と判断されます。
つまり、リハビリ介入前や介入中には、発熱の程度や熱発時期、創部の色調変化や炎症マーカーの経時的変化などから、発熱の原因を探索することが重要になります。セラピストが治癒を遅らせてしまったら、元も子もありませんね。「患者さんの訴えが変わったな」「数値や創部の見た目が昨日と全然違う」など、気になることがあればすぐに主治医や担当看護師に相談することが大切かなと思います。
~疼痛~
続いて、疼痛についてです。
手術による侵襲によって身体の組織損傷が生じると、炎症性のメディエーター(サイトカイン、プロスタグランジン等)が炎症局所で産生され、自由神経終末が興奮することで疼痛を生じます。
この疼痛は、呼吸状態や循環動態、内臓機能や精神面などに影響を及ぼすため、結果として術後の回復を遅らせてしまうこともあります。
日頃リハビリをしていて、「痛いけど…我慢する!」と気合を入れてリハビリに挑もうとする患者様もいらっしゃいますが、前述したように疼痛が術後の回復を遅らせてしまうこともあるため、できるだけ痛みのない状態でリハビリを行うことが大切になります。
患者様自身が感じる痛みとして、大まかに二つ。〈情動的な痛み〉と〈感覚的な痛み〉があります。
前者の例として、「動かすと痛い気がする…」「痛みが出そうだから足に体重をかけるのが怖い…」と訴える患者さんがいらっしゃいます。いわゆる恐怖感・不安感ですね。これに関しては、セラピストの技量はもちろん、患者様の訴えを傾聴するなどして精神的な苦痛を排除することが大切となります。
後者に関しては、この場合の疼痛は手術による組織損傷が生じているため、痛いのは当然!と考えるのが妥当かなと思います。前者同様、セラピストの技量も大切ですが、リハビリ介入前の対処として鎮痛剤による疼痛コントロールを行うのは一つの方法かなと思います。また、「薬を飲んだから大丈夫!」といったように、不安感や恐怖感を払拭してくれる、なんてこともありそうです。〈情動的な痛み〉にも効果がありそうですね!プラシーボ効果的な!実際鎮痛作用もあるとは思いますが!
リハビリ介入前に担当看護師さんと相談し、鎮痛剤の効果発現時間を考慮しながらタイミングをみて、痛みのない状態で介入できるとより良いリハビリになるのではないかなぁと思います。発熱のところでも出ましたが、看護師さんと情報共有するってとても大事ですね!
3.転換期 術後3,4~7日
第1相が長くなりましたが、次に第2相に移ります。
第2相は転換期と呼ばれ、術後傷害された身体が、回復へと向かう転換の時期に当てはまります。生体反応として、平熱に戻る・尿量増加・循環動態正常化・疼痛軽減などが挙げられます。
この時期でのポイントは、予測された反応と生じている反応に矛盾がないかをみる点です。
これは、第1相で述べたこと同じですが、なかなか熱が下がらなかったり疼痛が続いていたりすると、合併症の疑いや治癒の遅延などが可能性として挙げられます。また、セラピストの過度な運動強度設定によって身体に過度な負担がかかり、治癒を遅延させている場合もあるため、リハビリの内容にも考慮が必要そうですね。
ただ、予測された反応との矛盾が必ず無いとは言えないこともあります。
~尿量~
尿量の増減を例に挙げると、傷害期では尿量が減少し、転換期で尿量が増加(元に戻る)します。しかし、症例によっては「転換期に入っても尿量が増えない」なんてこともあります。詳しく聞いてみると、既往に腎不全や心不全があり、そこが原因で尿量が元に戻らなかった!なんてこともあります。現疾患から原因を辿るのも大切ですが、既往歴などから事前に情報収集で予測される反応を整理しておくことも大切かなと思います。
余談ですが、臨床を重ねてきている中で、術後の生体反応は年齢や性別・既往歴などによって様々という印象があります。リハビリの負荷量の調節やメニューの開始時期などは、年齢や性別によってその都度変えていくことが必要だなぁ~と改めて感じます。はぁ、難しいですね~。
4.第3相:回復期 と 第4相:脂肪蓄積期
第1相に比べて第2相短い!と思った方もいらっしゃると思いますが、第3相・第4相はもっと短いです。
この時期になると、バイタルの安定・便通正常化・食欲回復等々、元あった正常な身体に戻っていく時期です。ここまで来たら、機能向上のためのリハビリをどんどんやっていってもよさそうですね。もちろん、リスク管理を忘れずに!
5.まとめ
以上、非常に簡単ですが、周術期とムーアの分類についてまとめてみました。特に第1相・第2相ではまだまだ書き足らない部分が沢山あります。また、各相における生体反応のメカニズムについて調べておくとより理解しやすかったり、学生だと国家試験の勉強にもなるのでオススメです!
今回の重要なポイントとして、①予測された反応と生じている反応が矛盾していないかみる点、②生じている異常な反応の原因が何なのかを探索する点があります。もし異常を見つけた際、リハビリで処置できることは殆どないと思います。異常を見つけたときには、医師や看護師に相談し適切な処置をしてもらいましょう。
ムーアの分類について説明してきましたが、「疼痛コントロールやら全身状態の管理やらをやって、離床を促すことの意味って何?」という疑問が浮かんでくる人もいらっしゃると思いますので、後日別で更新させていただければと思います。
ムーアの分類とこれらのポイントを理解しておくことで、より安全に効果的なリハビリを患者様に提供できるようになると思います。今回紹介したのはほんの一部分ですので、ぜひテキストを開いて調べてみてください!
参考文献
1)北島泰子,中村充浩 急性期実習に使える!周術期看護ぜんぶガイド 照林社 2020
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