関節モーメントとは|重心位置と関節モーメントから考える力学的負荷の評価と治療【理学療法士なら知っておきたい歩行・動作分析の基本】

関節モーメントとは|重心位置と関節モーメントから考える力学的負荷の評価と治療【理学療法士なら知っておきたい歩行・動作分析の基本】

こんにちは!

理学療法士のヨシキです!

今回は、ランドマークからみる身体重心位置と関節モーメントについてまとめていこうと思います。

理学療法においてアライメント評価から動作分析を行い、力学的推論を行っていくことは基本中の基本であり、すごく重要なことです。

力学と聞くと、物理学であるような複雑な計算などをイメージされる方もあると思われますが、実際の臨床で数式を用いて関節負荷を求めることはありませんよね。

そこで、今回解説する重心位置・関節モーメントから考える力学的推論を1つの参考としていただけると幸いです。

※今回とは別にランドマークからみるニュートラルポジションの評価方法については下の記事から見てみてください!

身体重心とは

重心とは、物体の重さが作用する点であり、重心は身体程度の大きさでは、質量分布の中心位置と一致するとされ、身体重心=質量中心とされています。

ボールや物差しのような一様で対照的な形状をもつ物体の重心は、中心及び中点に位置します。

下の図のように、重心の真下である点を支えると、物体は回転せずに質量を支えることが可能となります。

また、身体重心の位置は、上半身重心と下半身重心位置の合成(中心)であり、一般的に成人男性の身長の55%の位置に重心があるとされ、第2仙椎前方にあるとされています。

しかし、上記の重心位置は静止立位時のものであり、動作時は上下半身が動いてしまうため、第2仙椎前方にある重心は前後左右に移動します。

因みに、上半身重心の位置は第7〜8胸椎部下半身重心の位置は大腿長の1/2〜上1/3の間の点とされています。

支持基底面とは

支持基底面とは、体重や重力を支える底面のことをいいます。

例えば、立位で身体を支える底面は、床に接地した両足底を囲んだ面が支持基底面となります。

前述した重心については、物体及び身体の中心に位置しており、これに対して重力は床面に向かって一直線に作用しています。

そして、この重心から床面に向かって落ちる重力(重心線)が支持基底面内に位置していれば、物体及び身体は安定し、支持基底面内から逸脱すると物体は倒れてしまいます。

また、後で解説しますが、支持基底面内から重心線が逸脱すると物体及び身体には回転モーメントが働きます。

このモーメントによって物体は倒れてしまいますが、人の場合は転倒するモーメント(外部モーメント)に対して筋肉を使って、転倒しないようにするモーメント(内部モーメント)が作用するため簡単には転倒しません。

ただ、転倒しないといっても外部モーメントに対して働いた筋肉には負担がかかり、それが長時間続けば筋肉への負担は大きくなっていきます。

こういった力学的負荷を重心位置で評価することが可能となります。

スタティックモーメントの基本

モーメントとは、回転する力のことであり、ある点または軸を中心に運動を引き起こす力のことです。

四肢の1つの関節で生じるタイプの運動は回転運動であり、関節運動におけるモーメントを理解することが力学的推論には必要です。

しかし、軽く解説しましたが、関節におけるモーメントは1つではありません。

関節におけるモーメントには、外部モーメント内部モーメントの2種類があります。

外部モーメントとは、外力の影響によって生じる回転力のことであり、外力とは重力・床反力になります。

内部モーメントとは、外部モーメントに対抗する生体内部で生じる抵抗力であり、筋や靱帯・骨・皮膚抵抗になります。

上の画像で説明すると、ダンベル及びそこにかかる重力が外部モーメントということになり、それによって生じる外部モーメントは肘関節伸展(肘関節伸展モーメント)、逆にそれに対して上腕二頭筋などで抵抗する内部モーメントは肘関節屈曲(肘関節屈曲モーメント)ということになります。

そして、モーメントの考え方を理解する上で、身体のスタティックモーメントは何によって決定されているのかということを知っておく必要があります。

結論から言うと、身体のスタティックモーメントは、当該関節の状態と当該関節より上の重量がどのように加わるのかによって決定されると言われています。

例えば、下の画像のような1本の枝を想像して下さい。

この枝を人体と仮定して赤丸で示した部分が関節の場合、上から2つ目の赤丸から伸びた枝に重りをぶら下げます。

その場合、その枝に重力がかかるため、2つ目の赤丸(関節)に対して下方への外部モーメント上方へ内部モーメントが発生すると考えられます。

では、もう一方の下の枝に重りをぶら下げるとどうでしょう?

言うまでもなく、下の枝に重りをぶら下げても、上の枝にはなんら影響が起きませんよね。

つまり、人体でも同じことが考えられ、当該関節より下に重量が加わったとしても関節への影響は生じないと言えます。

スクワットにおける膝関節で考えると、当該関節が膝関節であるため、それより上方に位置する体幹・骨盤の重量がどこにかかっているかでモーメントのかかり方が変化します。

今回は、重心が後方と仮定した場合、外部モーメントは屈曲、内部モーメントは伸展となります。

また、上記のスクワットに示した床反力の点線を見てください。

モーメントを考える際に、この床反力(重心)が関節に対してどこを通るか考えると外部・内部モーメントがどちらに加わっているか考えやすいです。

というのも、床反力が通っている方に関節は動くので、床反力が通過した側が外部モーメントという風に考えられると思います。

床反力が膝関節後方を通れば、後方を近づけるに屈曲が生じ、逆に膝関節前方を通れば前方を近づけるように伸展が生じるといった感じですね。

身体におけるスタティックモーメント

スタティックモーメントを考える上で、当該関節の状態と当該関節より上の重量がどのように加わるのかが重要と述べましたが、身体モーメントはそれだけでは把握し切ることはできません。

身体モーメントを考える上で、身体重心の位置はもちろん重要ですが、骨盤の動きも合わせて考えることが必要になります。

人の姿勢には様々なパターンが存在しますが、重心移動のみで姿勢変化しているものもあれば、骨盤の前後傾・前後方変位などの姿勢パターンも存在します。

出典ーKENDAL,Florence Peterson,et al. Muscles,testing and function: with posture and pain. Baltimore,MD: Williams & Wilkins.1993ー

過度な骨盤前傾によって腰椎の過前弯と殿部の後方突出が生じるロードシス

ロードシスに対して胸椎後弯代償が生じ、頚部および腹部前方突出を伴うカイホロードシス

過度な骨盤後傾によって腰椎の前弯が消失し、整理的湾曲が失われたフラットバック

過度な骨盤後傾による後方重心に対して、代償として腹部前方突出となるスウェイバック

上記のような姿勢が代表的に挙げられます。

ただ、前提として骨盤が前方および後方に位置していようと重心は前方にも後方にも変化させることができます。

また、骨盤の前後傾も同様にどちらに変位していようと重心は前後に変化させることが可能です。

骨盤の位置が変わるということは、骨盤より下の関節の動きも変わってきます。

つまり、身体重心をみる上で骨盤の位置を正確に把握しておくことが重要と言えるのではないでしょうか。

そこで今回は、スウェイバックを例に挙げて解説します。

まず、下の画像は重心を前方移動させた際の関節モーメントを示しています。

この姿勢では身体重心のみが前方変位しており、足圧中心が前方に位置しているため、外部モーメントとして骨盤は前傾します。

また、身体重心が前方にあるということは股関節より上方の体幹部分は前方に位置しているため股関節は屈曲が生じます。

膝関節・足関節も同様に当該関節より上の重量が前方に位置しているため、伸展・背屈が生じます。

これらの動きに対して内部モーメントが逆の動きを生じさせます。

では、スウェイバックではどうでしょうか。

先ほどの姿勢から足圧中心を変えずに骨盤(腹部)だけを前方変位させ、姿勢を保ちます。

つまり、身体重心は前方のままで骨盤のみ並進運動させたということになります。

それを踏まえて、下の画像を見て下さい。

骨盤のみが前方変位しているということは、外部モーメントとして骨盤は後傾します。

すると、股関節より上は後方に位置するため股関節には伸展が生じます。

また、膝関節も同様に上の重量が後方にいくため屈曲が生じます。

※画像の重心線の位置がわかりにくくなってますが、後方を通ります。

しかし、足関節においては足圧中心が変わっていないため背屈が生じます。

2つの姿勢を見比べていただくと、ほとんどの関節モーメントが逆転していることがわかると思います。

つまり、アライメント評価の際に外観だけで重心が前にいっていると判断するだけで終わっていると、関節モーメントを正確に把握することはできません。

そのため、重心位置を確認したら、骨盤がどのように位置しているのかを評価することが重要と考えます。

参考書籍

まとめ

モーメントは教科書で習っていた頃は歩行の周期で考えることが多かったため、複雑になってわからなくなることが多かったです。

しかし、モーメントを考える上で、基本はスタティックな姿勢を正確に捉えることが重要だと思います。

スタティックモーメントが理解できれば、歩行を周期ごと捉えることができれば自然とダイナミックモーメントも見えてくると思います。

今回解説したスタティックモーメントにおける力学的負荷を臨床で応用するならば、膝折れがなぜ生じているのか、拘縮がなぜ生じているのかなど姿勢観察で予測を立てることが可能だと思います。

力学的負荷を捉えることは、整形疾患だけでなく中枢疾患・内部疾患問わず必要だと思うので、ぜひ臨床に活かしてみて下さい!

それでは、今回はこの辺りでおしまいです。

今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います!

理学療法士 ヨシキでした!