股関節内転制限および外転筋力がデュシャンヌ歩行に及ぼす影響|中殿筋の筋力低下は意外と影響していない?【論文紹介】

股関節内転制限および外転筋力がデュシャンヌ歩行に及ぼす影響|中殿筋の筋力低下は意外と影響していない?【論文紹介】

こんにちは!

理学療法士のヨシキです!

前回解説したデュシャンヌ歩行から、さらに深ぼって解説していこうと思います。

以前解説したように、デュシャンヌもトレンデレンブルグも中殿筋の筋力低下が影響しますが、それぞれ背景には様々な要因があります。

そこで、今回は股関節の可動域制限から生じる影響についての研究解説をしていこうと思います。

トレンデレンブルグとデュシャンヌ歩行の原因が気になる方はこちらから↓↓

研究方法

【対象】

大腿骨近位部骨折および変形性股関節症により手術が施行され、転院または退院時に杖なし歩行が可能となった34名

【疾患内訳】

  • 大腿骨近位部骨折 25名
  • 変形性股関節症   9名

【群分け】

  • N群:正常歩行群(男性;1名、女性;14名、平均年齢;74.3±10.7歳)
  • D群:荷重時に体幹を立脚側へ傾ける群(男性;2名、女性;17名、平均年齢;69.1±10歳)

【検討項目】

  1. N・D群における股関節外転筋力
  2. N・D群における股関節内転角度
  3. 股関節内転角度の違いによる跛行出現率

研究結果

患者背景として、年齢や性別で両群間に有意差は認められなかった。

股関節外転筋力は、N群1.83±0.6Nm/kg、D群1.6±0.84Nm/kgで、有意差は認められなかった。

股関節内転角度は、N群12.7±3.2°、D群6.6±4.4°であり、N群で有意に内転域が大きかった。

股関節内転角度の違いによる跛行出現率は、股関節内転が5°以下では100%、10°では38.5%、15°以上では22.2%と内転域の増大と共に跛行出現率が有意に低下した。

考察

股関節疾患の術後症例において、股関節内転角度の減少がデュシャンヌ跛行の出現に影響を及ぼすことが明らかとなりました。

しかし、股関節外転筋力はデュシャンヌ跛行の直接的な関連因子とはならなかったとしています。

要因として評価方法で徒手筋力計を用いた等尺性筋力の測定であったため、時間的要素や空間的要素が反映できておらず、必ずしも筋機能低下を示しているとは言えないと報告しています。

内転角度については、関節可動域とデュシャンヌ跛行が強く関連することがわかります。

正常歩行における股関節内転角度は、踵接地から足底接地にかけて約4°必要です。

ただ、立位での外転筋は遠心性収縮によって筋内圧が高まり伸張性が低下するため、背臥位での股関節内転可動域が4°あったからといって、歩行中も大丈夫という訳ではないです。

つまり、正常歩行を獲得するためには、背臥位で測定される股関節内転角度が、歩行に必要な4°よりさらに大きな数値が必要であると報告しています。

厳密に何°必要なのかは言及されていないため、今後の研究報告に期待したいですね。

【股関節疾患の術後内転制限の要因】

〈THAの場合〉

  • 術後の筋攣縮
  • 骨頭引き下げによる外側軟部組織の緊張増大
  • 手術侵襲による筋スパズムおよび術創部の伸張刺激
  • 皮下組織の滑走性低下

〈大腿骨近位部骨折の場合〉

  • 術後の筋攣縮
  • 手術侵襲による筋スパズムおよび術創部の伸張刺激
  • 皮下組織の滑走性低下

デュシャンヌ跛行を筋力の観点から考えると、体幹を立脚側へ傾けるのは骨頭から重心までの距離を短くして、弱い外転筋力で歩行するための代償運動をいえます。

しかし、内転制限の場合は、立脚時に生じる骨盤の外方移動(股関節内転)が制限され、重心を立脚側側へ移動できないため、体幹の側屈で代償することで重心を立脚側へ移動させていると考えることができます。

つまり、観察されるデュシャンヌ跛行(外観)は同じでも、原因が異なるということが重要で、可動域なのか筋力なのか、そこを判断する観察力や評価力がセラピストに求められています。

一つだけ言えることは、内転制限がある場合は、トレンデレンブルグ跛行は出現しないということです。

まとめ

いかがだったでしょうか。

一般的には、デュシャンヌ跛行が見られた時、中殿筋の筋力低下が疑われることが多いですが、可動域制限の影響も大いに起こりうるものだということが分かりましたね。

以前解説したデュシャンヌ跛行の直接的要因・間接的要因には挙げていませんでしたが、股関節内転制限は間接的要因にあたります。

今回の研究に限った話ではないですが、結論、症状は同じでも原因は様々存在するため、セラピストの観察力・評価力が重要だということですね。

今回紹介した研究は、

熊谷匡晃,他:股関節内転制限および外転筋力が跛行に及ぼす影響について.PTジャーナル49(1):87-91.2015.

それでは、今回はこの辺りでおしまいです。

今後も皆様の役に立つ情報を発信できればと思います。

理学療法士 ヨシキでした!