移動動作自立に必要な下肢筋力は?|下肢筋力と移動動作能力の関連【歩行・階段昇降に必要な筋力のカットオフ値】
- 2022.04.22
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こんにちは!
理学療法士のヨシキです!
今回は、下肢筋力と移動動作能力の関連性についてまとめていこうと思います。
歩行や立ち上がり動作などの動作能力と下肢筋力が関連することは、当たり前のように理解されていることだと思います。
しかし、どの程度の筋力があれば移動動作自立となるのか把握していますか?
そこで今回は、過去の論文などを元にカットオフ値やMMTの考察ポイントについてもまとめていきます。
下肢筋力と移動動作能力の関連
筋力と移動動作能力は密接な関係があり、移動動作自立のためには最低限の下肢筋力が必要とされています。
下肢筋力の測定によく用いられるのが、ハンドヘルドダイナモメーター(Hand held dynamometer/以下、HHD)で、今回参考にさせて頂いた論文も同様に使用されています。
HHDを用いて等尺性膝伸展筋力を測定し、移動動作自立に必要な筋力水準を検討された論文によると、
いずれの動作も筋力と動作可能割合の関係は直線的ではなかった。
つまり、ある一定水準以上の筋力区分では、全例が動作可能であり筋力の多寡によって動作の可否は影響を受けなかった。
一方、その水準を下回る場合、筋力区分の低下にしたがって移動動作能力が可能な割合は明らかに低下した。
出典ー等尺性膝伸展筋力と移動動作能力の関連 運動器疾患のない高齢患者を対象として/山﨑 裕司ー
と述べられています。
つまりどういうことかというと、一定値以上の筋力を有するものは移動動作自立となるが、一定値以上の筋力における強弱は、動作の自立・非自立に影響を与えなかったということになります。
また、逆に一定値以下の筋力の場合は、低ければ低いほど移動動作レベルが低下するということです。
そのため、リハビリ時に筋力を測定することで、対象者の移動動作能力をある程度予測することができます。
膝伸展筋力と移動動作自立のカットオフ値
膝伸展筋力体重比(kgf/kg)と移動動作能力自立レベルを以下にまとめます。
院内独歩
※T字杖で300m以上歩行可能者・認知症で監視を要する者も含む。
- 全例自立:0.35kgf/kg以上
- 全例非自立:0.20kgf/kg以下
動作自立例の筋力区分下限値:0.25〜0.29kgf/kg
椅子からの立ち上がり(40cm)
- 全例自立:0.35kgf/kg以上
- 全例非自立:0.20kgf/kg以下
動作自立例の筋力区分下限値:0.20〜0.24kgf/kg
階段昇降(蹴り上げ16cm、踏面30cm、段数16段)
※両上肢が手すりや大腿に触れることなく、連続して一足一段で昇り切れる場合。
- 全例自立:0.50kgf/kg以上
- 全例非自立:0.25kgf/kg以下
動作自立例の筋力区分下限値:0.25〜0.29kgf/kg
昇段(30cm)
- 全例自立:0.50kgf/kg
- 全例非自立:0.25kgf/kg以下
動作自立例の筋力区分下限値:0.25~0.29kgf/kg
それぞれの動作自立例の筋力区分下限値に着目すると、椅子からの立ち上がり以外0.30kgf/kg以下を下回る場合、動作自立例はきわめて少数であったと報告されています。
また、歩行速度について検討した論文によると、
最大歩行速度1.22m/sec達成者の膝伸展筋力/体重比の累積割合分布は、1.1Nm/kgまで横ばいであったが、それ以降は上向きになり、このレベルを境に1.22m/secに達する確率が高くなり始めたことが示された。
出典ーAssociation of muscle strength with maximum walking speed in disabled older woman/Rantanen Tー
と述べられています。
このことから、歩行自立の可否の評価として実施される10m歩行テストの基準値に達するためには、最低でも膝伸展筋力1.1Nm/kg以上は必要ということになります。
※Nm/kgは等速性膝関節伸展筋力
ちなみに、kgfとNは施設や使用機器によって測定される単位に違いがあると思うので簡単に説明します。
1kgf=9.8Nとされており、1N=0.102kgfとなります。
そのため、HHDの測定をNで行なった場合、N×0.102=kgfで変換します。
さらに、筋力体重比を求めるためにkgf/kgで筋力を算出します。
また、筋力測定に体重比を算出する意味合いとしては、筋力を決定する因子として筋断面積と運動単位が挙げられており、筋力の増加つまり筋断面積の増加は、総合的な体重の増加に関連付けることが可能であるためと考えます。
立ち上がり動作で膝伸展筋力を推定する方法
今回参考にさせて頂いた論文は、【高齢者における等尺性膝関節伸展筋力と立ち上がり能力の関連(大森 圭貢)】です。
方法は、運動器疾患を有していない高齢患者を対象に等尺性膝関節伸展筋力と立ち上がり能力を評価し、比較しています。
膝関節伸展筋力は、両側膝関節各2回ずつ測定した後、大きい値を採用し、左右脚の平均値(kg)を体重(kg)で除したものの百分率を等尺性膝関節伸展筋力(%)として算出します。
※筋力値(%)=等尺性膝関節伸展筋力(kg)/体重(kg)×100
立ち上がり能力は、40cm、30cm、20cmの台からの立ち上がりの可否を測定しています。
立ち上がり能力から推定される等尺性膝関節伸展筋力を以下にまとめます。
40cm台からの立ち上がり
- 全例自立:膝関節伸展筋力35%以上
- 全例非自立:膝関節伸展筋力20%以下
30cm台からの立ち上がり
- 全例自立:膝関節伸展筋力45%以上
- 全例非自立:膝関節伸展筋力20%以下
20cm台からの立ち上がり
- 全例自立:膝関節伸展筋力55%以上
- 全例非自立:膝関節伸展筋力30%以下
上記の数値を参考に、対象者の立ち上がり可能な高さを評価することである程度の膝関節伸展筋力値を予測することが可能となります。
今回紹介した論文の数値で百分率で算出しなければ、kgf/kgと同様の数値になるので、自立可能な移動能力の予測も可能です。
因みに、kgとkgfの違いは、重力がかかっているか、かかっていないかの違いなので、地球上の物体には必ずkgfがかかります。
そのため、機械に対して生じた筋力を測定する場合、kg=kgfと捉えていただいても問題ありません。
膝伸展MMTとHHDの関連
HHDなどを用いて筋力値を算出することは再現性があり、正確な評価に有用と思われますが、器具を用意しないといけないことや装着するための時間を要することなどから簡便な評価とは言えません。
臨床現場において、最も周知され利用されているのは徒手筋力評価MMTだと思います。
しかし、MMTはGrade4以上は検者の主観に左右され、移動動作能力を考察する上で、MMTの結果からでは筋力低下の程度を予測することは困難です。
そのため、HHDとMMTの筋力値の関連を研究したいくつかの論文を参考に以下にまとめます。
まず、HHDとMMTの相関については、
膝伸展筋MMT値と膝伸展ピークトルク値との間には、相関係数r=0.79の正相関を認め、男女とも段階の上昇と共に膝伸展ピークトルクは有意な高値を示した(p<0.05)。
出典ー膝伸展筋の徒手筋力検査値と膝伸展ピークトルク値の関連/平木 幸治ー
と述べられています。
MMT Grade3
男女ともおよそ0.3N・m/kgに収束しており、最も客観的に評価できるGradeと言われています。
MMT Grade4
- 男性:0.36〜1.45N・m/kgに分布
- 女性:0.33〜1.32N・m/kgに分布
このGradeでは、移動動作自立レベルに不十分な筋力〜十分な筋力まで広範囲に相当しています。
そのため、4レベルの筋力では移動動作自立と判断するのは困難と考えられ、明確な筋力を測定するための筋力測定機器による評価は必要と考えます。
MMT Grade5
- 男性:平均1.65N・m/kg
- 女性:平均1.50N・m/kg
このGradeでは、おおむね主要な移動動作の自立のために十分な筋力があると考えられます。
しかし、最大抵抗でなく、強力および中等度の抵抗に対して、可動域の1/2以上抗すると判断されるような、完全にGrade5と判定できない場合はGrade4と考える方が妥当と思われます。
というのも、5-と判定された症例の中には、1.2N・m/kg以下の症例が含まれていたと報告されているためです。
まとめ
筋力評価は、移動動作の自立レベルを考える上で必要不可欠です。
しかし、筋力評価の方法は多岐にわたり、簡便なものから機器を必要とするものまであります。
簡便な評価ほど客観性にかける評価となりますが、等尺性筋力と動作自立レベルの関係を知っておけば、対象者の動作レベルから現在の筋力を予測することが可能です。
自分自身の評価・治療の質を高め、効果の裏付けをとるためにも筋力の把握は意識的に評価して行くべきだと思います。
また、患者さんへの効果判定も数値の比較があると、患者さんからの信用も得られやすいですよね。
今回紹介した論文は一例ですので、臨床評価での1つの参考として頂ければ幸いです。
それでは、今回はこの辺りでおしまいです!
今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います!
理学療法士 ヨシキでした!
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