関節モーメントの臨床応用|基礎〜臨床的見方・考え方【理学療法に繋げる評価】
- 2022.07.26
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こんにちわ!
理学療法士のヨシキです!
今回は、以前まとめた関節モーメントの臨床応用について簡単に解説していこうと思います。
とは言っても、よくよく考えてみると当たり前だと感じる内容ではあると思うので、モーメント理解の参考の1つにしていただければと思います(^ ^)
関節モーメントの基礎についてはこちらから👇
姿勢と動作から診る運動器疾患
姿勢・動作の観察・分析は、理学療法士の強みだと思います。
姿勢・動作がなぜ重要なのかというと、起きている障害の原因及び結果に直結していることが多いからです。
例えば、左の腰椎神経根症状を呈している患者が左下肢のぶん回し歩行をしている人がいるとします。
このぶん回し歩行によって体幹左側屈が相対的に引き起こされ、神経根症状を呈する可能性は高いですよね。
では、このぶん回し歩行をすぐさま治そう!と思ったあなたは、もう一度このぶん回し歩行が生じている原因を考えてみましょう。
例えば、下肢長が対側に比べ長いことや内転筋の筋力低下、股関節屈筋の作用不足で生じてしまっているのか、はたまた膝の術後で創部を伸張させないためにぶん回しているなどが挙げられます。
今挙げた要因の中で、ぶん回し歩行を修正してもよい要因としてはいけない要因があります。
では、修正してはいけない要因はなんでしょうか?
それは、膝の術後で創部を伸張させないためにぶん回し歩行を行なっている場合です。
なぜかというと、膝の創部痛を回避するためにしている代償動作であるため、そこを修正してしまうと神経根症状を軽減できたとしても膝創部へのストレスは増大してしまいますよね。
その他に挙げた要因であれば、それらのせいでぶん回し歩行となり神経根へストレスをかけている可能性があるためアプローチするべきと言えます。
つまり、何が言いたいかというと、このぶん回し歩行というのが何かの結果として生じてしまっているものなのか、これが原因で障害を引き起こしているものなのか考える必要があるということです。
当たり前のことですが、姿勢・動作の異常が全て治療対象ではなく、障害の原因と結果を区別して治療介入していくことが重要となります。
姿勢・動作が原因である可能性が高いもの | 姿勢・動作が結果である可能性が高いもの |
変形性膝関節症 スポーツ障害 習慣 | 外傷 手術 疼痛を有する |
そして、姿勢・動作が結果である可能性が高い場合、先ほどの例では膝創部の改善が最優先ではありますが、個別評価として姿勢・動作評価を加え、創部負荷の軽減に対して個々の運動改善を図ることが目標となります。
逆に、姿勢・動作が原因である可能性が高い場合、姿勢・動作評価を実施し、そのフォームを改善していくよう介入することが必要となります。
その他の例としたら、右投げピッチャーが左股関節内旋内転可動域制限によって右肩に負担がかかってしまうなどがあります。
つまり、肩が痛いから肩を診るというだけでなく、その他の部位が原因で障害を引き起こしてくる可能性があるということを頭において評価・治療していくことが必要ですね。
身体重心の観察
身体重心を診るときは、まず上半身と下半身で分けて診ます。
支持基底面に身体重心が投下されることでバランスをとることが可能となるのですが、身体重心を規定するには、上半身と下半身がどの位置にあるか把握しておかなければなりません。
上半身質量中心は第7−8胸椎、下半身質量中心は大腿長上2/3と1/2の間に存在し、身体重心は静止立位において第2仙骨の前方に位置しているとされています。
つまり、仙骨を中心として上ー下の質量、または前ー後ろの質量、右ー左の質量はある程度同じ質量となることでバランスをとっていることがわかります。
これらのことを踏まえて、上半身・下半身の質量中心位置が変わらないものだと考えると、両質量中心点の中間に身体重心が位置することが観察できます。
そして、その身体重心に重力がこの一点を通ってくる考えられ、地面に足が接触している場合は、足圧中心から床反力の力を身体は受けることになります。
※厳密には違いますが、身体重心と足圧中心はその1点のみに重力がかかっていると考えて良いです。

上の画像の赤いライン(重力)と青いライン(床反力)の力が同じ場合、力の方向も真反対であれば力が拮抗し、この人は動かないということがわかります。
しかし、動物は動くので、当然床反力も動きます。
ただ、身体重心は床反力の動きに合わせて位置を変えることになるのですが、バランスをとれている場合は、身体重心は支持基底面の範囲内で移動します。
例えば、床反力が身体重心点より前を通過する場合、この人は後ろに倒れる力を受けることになります。
立っている人がつま先を上げれば踵に力がかかるため、後ろに転けそうになった人も当然つま先を上げますよね。逆に前に転けそうになれば踵が上がります。
この時に何が起きているかというと、上半身重心が後方へいくのに対して、足関節背屈することで床反力が後方へ移動し、身体重心より後方を通過するため、前回りの力が作用して上半身重心が前方へ移動しやすい状況を作ってます。
前に転けそうな場合も同様の考え方ができるので、実際に自分の身体で試してみるとわかりやすいと思います。
後方へ上半身を傾けた時に、足関節背屈させる場合としない場合では、背屈した方が前に戻りやすいですよね?
これが、足関節戦略なのですが、この観察が評価としても使えます。
上半身重心を後方へ移動させた際に、足関節が背屈するのか、はたまた足趾が過剰に伸展しているのか。
足趾が伸展している場合は、足関節背屈制限があるのではないか?など疑うことができますね。

次に、上の画像の人を前に押せば、殿部を後方へ移動させることでバランスをとろうとします。
何が起きているかというと、上半身重心が前に移動するのに対して下半身重心を後方へ動かすことで身体重心を支持基底面内から動かさないようにする反応が起きていると言えます。
これがよく聞く、股関節戦略ですね。
この観察では、殿部が後方へ移動しないのであれば股関節屈曲制限があるのではないか?など疑うことができます。
その他には、後ろから膝カックンをさせると、下半身重心が前にいくため上半身を後方へ反らすことで上半身重心を後方へ移動させ身体重心位置を安定させます。
医療現場で多いものであれば、高齢者の円背ですね。
円背は胸椎後弯が過度に生じた状態であり、つまりは、上半身重心が後方に位置している状態です。
そのため、多い反応は膝関節屈曲させることで下半身重心を前方で移動させ代償します。
さらには、円背が大きく膝だけで代償できなければ頭部前方位で頚部を伸展させ、上半身重心をなんとか前方へ戻そうとしたりもします。
つまり、最初の項目で述べた、結果・原因の話に戻ると、円背による大腿四頭筋筋緊張へアプローチすることは対象療法であり、根本原因へアプローチできていないということになります。
そのため、姿勢・動作の観察・分析は重要なのですが、身体重心位置となる仙骨部の動きの観察も重要ということになります。
厳密には回旋もありますが、骨盤前後傾および前方・後方移動の評価が必要です。
前後傾はASIS・PSISの触診、前方・後方移動は乳様突起から外果にかけて通る重心線で評価することができます。
因みに、臨床的に重心線のランドマークを診る場合は、肩峰ー外果に対して大転子が前方なのか後方なのか診ることで素早く観察することが可能です。
アライメントの評価はこちら👉https://yoshiki-rebit.com/2021/08/26/post-345/
モーメントとトレードオフ
モーメントについては、以前の記事でまとめているので割愛します。
👉https://yoshiki-rebit.com/2021/09/13/post-404/
では、みなさんはトレードオフについて、聞いたことはありますか?
トレードオフとは、何かを達成するためには別の何かを犠牲にしなければならない関係のことであり、身体のバランス制御でも同じようなことが生じています。
例えば、体幹前屈する場合、下半身は後方・上半身は前方へ移動します。
主な関節運動は、股関節屈曲・脊柱屈曲のペアで生じます。
このペアにおけるトレードオフとは、股関節屈曲が強い場合は脊椎屈曲が少なくて済み、股関節屈曲が少ない場合は脊椎屈曲が強くなってしまうということです。
疾患で例えると、腰椎ヘルニアであれば同側股関節屈曲制限が背景に絡んでいることが多いのではないでしょうか。
また、臨床でストレッチングを行うことが多いと思われますが、特性上柔らかいものと硬いものをくっつけて伸ばすと、柔らかい部分のみ伸張されます。
どういうことかというと、長座体前屈を行った場合、ハムストリングスが硬い人ではハムストリングスはあまり伸張されず、背中の方が伸張されてしまうようなことが起きてしまいます。
この原理を踏まえると、体幹前屈をした際に、一方のハムストリングスが硬く股関節屈曲(骨盤前傾)が少ないと、脊椎屈曲が過剰となることに加え、股関節屈曲の左右差を補うために脊椎を対側へ側屈させます。
この反応は、前屈した際に両手の指先の位置を揃えるために起きてしまう代償です。
つまり、前額面の評価では、左ハムストリングスが硬い場合、骨盤左傾斜に対して腰椎右側屈が生じます。
加えて、脊椎の側屈には同側の回旋も生じるため、腰椎右回旋も同時に観察することができます。
次に、体幹後屈させるとどうでしょか?
これは、上半身重心を後方へ移動させる運動であるため、下半身重心が前方へ移動します。
主な関節運動は、腰椎伸展・股関節伸展で、どちらも可動域制限がある場合は、早期に膝関節屈曲が生じます。
簡単な評価方法は、両側ASISに触れ体幹後屈をしてもらった際に、ASISが上がってきてない側(骨盤前傾)の股関節伸展が出ていないことがわかります。
これで病態を考える際は、トレードオフを用います。
大体動き過ぎる場所に障害が起きやすいため、股関節伸展が出ていないということは腰椎伸展が過剰であることで障害を引き起こしている可能性が高いことがわかります。
骨盤前傾 | 骨盤後傾 | 骨盤前方移動 | 骨盤後方移動 | |
股関節 | 屈曲 | 伸展 | 伸展 | 屈曲 |
腰椎 | 伸展 | 屈曲 | 伸展 | 屈曲 |
これらのことを踏まえて、上の表を見てください。
仮に、骨盤前傾かつ骨盤前方移動をしていた人がいるとします。
上の表において、骨盤前傾・前方移動の腰椎の動きがどちらも伸展で一致しています。
つまり、股関節は相反する動きをするため、腰椎伸展がこの人の姿勢を成立していることが予測でき、伸展が過剰になっていることが考えられます。
治療対象は、動きにくい場所に対してアプローチすることが多いので、この人の場合は股関節可動域に対してアプローチすることになりますね。
もう一つ、しゃがみ動作についても考えてみましょう。
しゃがみ動作を診る時は、膝と股関節が同じ高さになるまで骨盤前傾が保てていた場合、正常なしゃがみ動作ができていると考えられます。
膝と股関節の高さが同じになる前に骨盤後傾が始まる場合は、上半身が後方へいきがちなしゃがみ込みと考えられます。
この人のトレードオフでは、股関節屈曲・足関節背屈制限を診る必要があります。
背屈が少なければ股関節屈曲が、股関節屈曲が少なければ足関節背屈が過剰である可能性が高いです。
関節モーメント
関節モーメントは、当該関節の状態と当該関節より上の重量がどのように加わるのかによって決定されるので、当該関節の上部質量中心と該当関節の水平面上距離から判断します。

つまり、上の図を頚部屈曲と考えて頂くと、頚部の上の質量は頭部であり、頭部の質量中心は大体耳たぶの辺りとすると、頚椎で最も距離が遠いのは第7頚椎になるので、第7頚椎に向かうほど関節モーメントが大きいことがわかります。
下の図で考えてみましょう。
足関節に加わるモーメントを診たい場合は、足関節より垂線を引きます。
その垂線に対して、前方・後方の質量を見比べてみると一目瞭然ですね。
前方の方が質量は大きく、垂線より前方に位置しているため、外部モーメントは足関節背屈させるように作用するため、腓腹筋などの足関節底屈筋へ内部モーメントが作用します。

次に膝関節はどうでしょうか?
同様に膝関節から垂線を引いてみると、こちらも上部の質量が大きく、垂線より前方に位置しているため膝関節屈曲方向に内部モーメントが作用します。

最後に股関節はどうでしょうか?
股関節から垂線を引くと、股関節より上の質量が垂線より前方に位置しているため、股関節伸展に内部モーメントが作用していることがわかります。

つまり、姿勢・動作を観察することで筋活動を把握することは簡単です。
まとめると、診たい関節から垂線を引き、その関節より上部の質量が前方に位置しているのか後方に位置しているのか観察することで関節モーメントの方向を判断することができます。
これを知っておけば、臨床での姿勢・動作関節がよりスムーズに進められるのではないでしょうか。
参考書籍
まとめ
少し長くなりましたが、今回の考え方・診方を臨床に応用していただけば、姿勢・動作から対象者の問題点をスムーズに評価することができ、治療対象を適切に判断することができると思います。
今回の内容を踏まえて高齢者の円背における膝関節を診てみると、伸展モーメントは当然かかってくるので、大腿直筋の緊張亢進は当然生じてくる反応となります。
つまり、こういった方に対して大腿直筋の緊張軽減するために大腿直筋のストレッチングをすることは結果にアプローチをしているだけなので、対症療法となってしまっていますよね。
そのため、関節モーメントがどのようにかかるのか、骨・関節はどのように動くのか評価した上で、障害の原因を適切に判断していくことが重要です。
あと、基本的なことになりますが、アライメント評価は3平面の動きで観察します。
矢状面・前額面・水平面の3つの面でそれぞれ関節の運動を診た時に、矢状面・前額面は屈伸・内外転と重力の影響が関与してくる動きとなります。
しかし、水平面における回旋の動きは重力の影響が少ない動きであり、ほとんどの関節運動において回旋の動きなしには目的とする関節運動は遂行しにくいとも言われています。
そのため、まずは水平面の問題から観察し残りの2平面を診ていくいいと思います。
矢状面での姿勢・動作障害 | 前額面での姿勢・動作障害 | 水平面での姿勢・動作障害 |
<矢状面評価> 屈曲ー伸展 身体前面ー後面 | <前額面評価> 内転ー外転 側屈、身体側面 | <水平面評価> 内旋ー外旋 矢状面ー前額面での障害 |
重力の影響がある | 重力の影響がある | 重力の影響が少ない |
身体の問題は、ほとんどの場合、動き過ぎている場所に問題が生じてきますが、動き過ぎてしまった背景には、動かなくなっているその他の場所が存在しています。
つまり、これでいう原因は動かなくなった場所であるため、動き過ぎている場所の負担を減らすために動かなくなっている場所を動けるようにすることがアプローチ方法となります。
それでは、今回はこの辺りでおしまいです!
今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います!
理学療法士 ヨシキでした!
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