胸郭の評価できてますか?|胸郭の評価とカウンターストレイン【胸郭のバイオメカニクス〜臨床応用】

胸郭の評価できてますか?|胸郭の評価とカウンターストレイン【胸郭のバイオメカニクス〜臨床応用】

こんにちは!

理学療法士のヨシキです。

今回は、最近勉強した胸郭に対するアプローチ方法とカウンターストレインについてまとめていこうと思います。

さて、日々の臨床で胸郭に対してアプローチしているセラピストはどの程度いるでしょうか?

例えば、「腰が痛ければ腰を診る」「首が痛ければ首を診る」など局所を見ることは基本であり重要なことですが、それが通用しなかった場合どうしますか?

そういった場合に胸郭を診ることで改善する場合もあるので、胸郭をどう診てどう考えるのか解説していければと思います。

胸郭への徒手療法効果

まずは、胸郭へのアプローチがそもそもエビデンスとして効果あるのかということについて触れていきます。

頸部疾患に対しては、胸椎から連なった関節であるため、多くの文献で胸椎アプローチの有用性が示されています。

研究者効果を除去した研究では、TSM(胸椎マニピュレーション)の治療効果について、プールされた推定値の値(1.33)は統計的に有意であった(95%信頼区間:1.15、1.52)。この分析から、頸部疾患患者の特定のサブグループに対するTSMの使用を支持する十分なエビデンスが存在することが示唆された。

出典ーThe Effectiveness of Thoracic Spine Manipulation for the Management of Musculoskeletal Conditions: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials./J Man Manip Ther 2009/Walser RF,et al.ー

TSMは、短期的には胸椎モビライゼーション、頸椎モビライゼーション、標準治療よりも有益であるが、痛みや障害の改善に関しては、頸椎マニピュレーションやプラセボの胸椎マニピュレーションよりも優れていないことが示された。

出典ーThoracic spine manipulation for the management of mechanical neck pain: A systematic review and meta-analysis./PLoS One 2019/Masaracchio M,et al.ー

上記の文献は一例ですが、胸郭に対するアプローチは頸部痛に対して有用であることが示されていますが、局所である頸部へのアプローチと比較すると有用性は劣るとされています。

やはり、局所から他部位への評価・治療へと進めていくのが基本になることがわかりますね。

次に、肩関節に対してはどうでしょうか?

インピンジメントテストが陽性であった98名の選手のうち、46名は肩甲骨のリポジショニングにより痛みが軽減された。リポジショニングはインピンジメント群(P=0.01)と非インピンジメント群(P=0.12)の両方で筋力増加をもたらしたが、リポジショニングによって筋力の優位な増加が認められたのは、肩のインピンジメントが陽性だった選手の26%、そうでない選手の29%だけであった。

出典ーEffect of the Scapula Reposition Test on shoulder impingement symptoms and elevation strength in overhead athletes./J Orthop Sports Phys Ther 2008/Tate AR,et al.ー

患者が肩のインピンジメント症状を示す場合、患者の症状と肩甲骨の位置や動きを関連付けるために、肩甲骨リポジショニングテストと肩甲骨アシスタントテストが推奨される。

出典ーClinical assessment of the scapula: a review of the literature./Br J Sports Med.2014/Struy F,et al.ー

上記の文献は、インピンジメント症候群に対しての有効性を示す文献ではありますが、肩甲上腕リズムなどがある以上、胸郭と肩関節は切っても切り離せない関係にあると言えます。

最後に、腰痛に対してはどうでしょうか?

胸部マニピュレーション、教育、運動の3つのセッションは、偽のマニピュレーション、教育、運動と比較して、慢性腰痛患者の転帰を改善することはなかった。 エビデンスレベル:レベル1b.

出典ーShort-term Effects of Thoracic Spine Thrust Manipulation, Exercise, and Education in Individuals With Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial./J Orthop Sports Phys Ther 2020/Fisher LR,et al.ー

バックスクールエクササイズとマッケンジー法は全て効果がなかった。オステオパシーの脊椎マニピュレーションは、腰部と胸部に行うと効果があることが証明されたが、受けた直後のみで、中期的にも長期的にも効果はなかった。マッサージは短期的には有効であり、グローバルな姿勢の再教育も有効であったが、最終的にこの研究は方法論的に質が低いと考えられる。

出典ーEffectiveness of classic physical therapy proposals for chronic non-specific low back pain: a literature review./Phys Ther Res 2018/Cuenca-Martinez F,et al.ー

上記の文献は一例ではありますが、意外にも腰痛に対する胸郭の徒手療法には明確なものはないとされています。

ですが、エビデンスがないと介入してはいけないのかというとそういう訳ではありません。

腰痛というのは幅広い症状であり、対象者によって様々な要因によって生じています。

その他部位にも言えることですが、臨床はエビデンス通りにいかないことがほとんどであるため、エビデンスや文献は参考にはしても、それに従って行えば治療できるというわけではありません。

また、胸部が単独で痛みを生じることは少なく、頚部・腰部痛を伴うことが多いと言われています。

つまり、胸部・胸郭が他領域に影響を与えていることは容易に推察されますね。

そのため、局所の評価を行った上で胸郭の評価を行い、局所と胸郭でどちらが症状に及ぼしている影響が大きいのか吟味していくことが重要です。

胸郭のバイオメカニクス

胸郭とは、12対の肋骨とそれに接続している12椎の胸椎、胸骨で構成されている部分を指します。

また、心臓や肺、肝臓などが胸郭内に存在しています。

胸郭は、胸骨・肋骨・胸椎が連結しているため、腰椎や頚椎と比較すると可動性は小さいです。

しかし、触診してみると意外と可動性は持ち合わせているのがわかると思います。

触診の方法については、被験者の後方から胸骨に触れ、胸骨端から鎖骨を触れ、それぞれの肋骨を同定していきます。

因みに、第1〜3肋骨は被験者の前面(胸骨から辿る)で触診し、第4〜12肋骨は後外側で触診するとわかりやすいと思います。(11,12 番は浮遊肋)

次に、胸骨端を触れた際にどちらが前方に出ているのか確認します。

ほとんどの人が鎖骨が真っ直ぐ左右揃っていないので、胸骨端を触れることで左右差を確認し、鎖骨部がどちらに回旋しているのか評価します。

僕の場合は、左の胸骨端が前方に位置しているので、左の鎖骨が前捻、右の鎖骨が後捻することで上位の胸部リングは右回旋してしまっていることがわかります。

さらに、胸部リングが右回旋したことで、胸椎は相対的に左側偏位し、左肋骨上方偏位・右肋骨下方偏位が生じます。

運動連鎖的にはこのように動きますが、連鎖が正常に生じていない場合もあるため触診した上で動きを判断するとより正確に評価できます。

胸郭の触診と臨床応用

上記の動きが理解できたら、評価をしてみましょう。

まず、頚部自動可動域の評価を行います。

屈曲・伸展・左右回旋をしていただき、動きやすい方向やつっぱり感・つまり感など問診から情報を得ておくといいでしょう。

例として左回旋がしにくいと訴えられた場合を考えてみます。

運動連鎖で一般的に起きやすいものを挙げると、頚部左回旋がしにくい場合、下の胸郭が左回旋してしまっている場合が多いです。

その際、生じているであろう動きをまとめます。

上記のような連鎖が生じるため、鎖骨の触診をした場合に、右が前にあるなと感じたら上位胸郭は左回旋しているのではないかと予測して触診を進めるといいでしょう。

実際に触っていただくとわかりやすいので、左右の第2肋間に触れた状態で頚部の屈伸・回旋をしてみてください。

屈曲すると肋骨は前捻伸展で後捻左回旋で右前捻・左後捻右回旋で右後捻・左前捻が生じると思います。

基本的に頚椎回旋に対して第1〜3胸椎までは同一方向に回旋するので、第1〜3の胸部リングは上記に記したような動きをします。

逆に第4〜12胸椎は頚椎とは反対に回旋する運動連鎖が生じます。

では、頚部が左に向きにくい場合の症例に戻ります。

第1リングまでは本来の連鎖が触診からわかったら、2〜3リングも触診していきます。

そこで第3リングのみ本来とは逆の動きをとっていたとすると、左回旋を妨げている要因として第3リングが怪しいと考えます。

怪しい箇所が見つかった場合は、徒手的に本来の動きを誘導してあげた状態でもう一度左回旋をしていただきましょう。

今回の場合は、右第3肋骨を下方に引くように誘導し、左は上方に押すように誘導するといいでしょう。

それによって回旋が少しでもしやすいなど変化が見られた場合は、第3リングの歪みから今回の問題が生じていたというアセスメントができます。

ここまで評価することができたら、第3肋骨が歪んでしまった要因を考えていくと根治療につなげることができるので、頚部の患者さんがいる場合は、ぜひやってみてください!

頚部の患者さんがいない場合は、体幹の動きにも使えるので試してみてください!

肋骨に影響を与える筋肉とカウンターストレイン

胸郭のアライメント評価を行ったら、次はなぜそのアライメントになったのか考える必要があります。

特に影響として考えられるのは筋・筋膜由来だと思うので、下にまとめてみました。

そして、筋性を疑うのであればトリガーポイントを見つけることが重要です。

そのため、筋肉の走行を頭でイメージしながら圧痛所見を確認していきます。

圧痛ポイントが見つかれば少なからず、その筋が今のアライメントに影響していることが予測されます。

ただ、しっかりと評価を行う場合はすぐに圧痛ポイントのリリースを行うのではなく、トリガーポイントを圧迫または短縮位にさせた状態で疼痛誘発動作や症状のある動作をしていただき、訴えが緩和するか評価しておくと良いです。

そうすることで、患者さんへのフィードバックもスムーズに行え、治療も的確に進めることができてくると思います。

上記のような治療方法をカウンターストレインと言います。

カウンターストレインとは、徒手的に筋肉の過緊張を抑制し本来必要とする筋収縮を促す手技になります。

まあ、カッコよく手技の名称がついていますが、予測→評価→検証を日々の治療で行っている人は、手技というより個人的には評価方法だと思いますが…

術後患者さんに使用することは少ないですが、外来治療や回復期などでは多くの場面で使用すると思います。

そのため、カウンターストレインの流れとしては、

  1. 画像所見や問診から病態を予測する。
  2. 仮説から推測した組織に負荷を加え、疼痛誘発を行う。
  3. 疼痛の消失もしくは緩和させることで病態を予測する。

3.の例として、頚部左回旋がしにくい患者さんに対してはアライメントの徒手的修正や怪しい筋を圧迫または短縮位にさせ左回旋が改善するか確認するなどです。

この時にカウンターストレインを使っていることになります。

つまり、この手技は仮説・検証の中で原因組織を特定するために必ずするべき方法と言えます。

僕は、特に疼痛治療で実施することが多かったので、ぜひ実践してみてください!

まとめ

胸郭を主病変に持つ患者さんは少ないと思いますが、頚部痛や腰部痛に対して胸郭が影響を及ぼしていることは少なくないと思います。

場合によっては、歩行改善に役立つ場面や呼吸補助など様々な場面で効果を示します。

そのため、主訴が改善し、後は廃用予防だけの患者さんや主病変に伴う腰部痛など治療時間の合間に胸郭をさらっと評価し、簡単な治療を加えてみるとリハビリ時間にできることはもっともっと増えると思います。

治療時間足りないなぁと思うと思います(笑

ですので、今回の胸郭は一例ですが、患者さんの満足度と能力の改善をさらに上へ上へ導くために全身のアプローチをできるようにしていきたいですね(^ ^)

それでは、今回はこの辺りでおしまいです。

今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います!

理学療法士 ヨシキでした!