変形性膝関節症における筋力低下にメカノレセプターが関わっている?【関節原性筋抑制と関節運動反射について】

変形性膝関節症における筋力低下にメカノレセプターが関わっている?【関節原性筋抑制と関節運動反射について】

こんにちは!

理学療法士のヨシキです!

今回は、変形性膝関節症における関節反射によって生じる筋力低下についてまとめていこうと思います。

変形性膝関節症に対してTKAなどが施行されますが、侵襲を受けると当然のように筋力低下が生じます。

しかし、侵襲によってどの程度筋力低下が生じるのか?どの程度の期間筋力低下が生じるのか?など疑問に思ったので、神経生理学的側面から生じる筋力低下についてまとめていきます。

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メカノレセプターと関節運動反射

生体が関節運動を行う際は、筋紡錘や腱紡錘などのメカノレセプター(関節受容器)が中枢へフィードバックすることで、スムーズな関節運動が可能となります。

また、メカノレセプターは、関節の位置覚や運動覚、関節包や靭帯の緊張度合いなどを感知すると考えられています。

以下に、メカノレセプターをまとめます。

上の表にあるように、メカノレセプターにはType1~4があり、Type1~3は組織の伸張刺激などを察知する機械的受容器Type4は組織損傷などを察知する侵害受容器として機能しています。

そして、Type1~2は関節運動の方向・速度・強さを感知して、周囲筋緊張をコントロールするとされ、それぞれ関節包に存在しています。

Type3については、関節包が可動域限界まで伸張された時や急に大きな張力が働いた時に軟部組織の緊張をコントロールするとされています。

しかし、メカノレセプターは 身体の様々な状態変化によって機能障害を呈すとされており、

老化、外傷や関節ストレスの繰り返し、ギプス固定などによる関節内外の組織の癒着と瘢痕化、手術的操作による関節内外受容器への直接的侵襲、荷重制限、長期臥床などにより下肢関節内外の固有受容器は機能低下に陥り、情報の量的、質的低下をもたらし、関節周囲筋による効果的な動的関節制御機能が障害されてくる。

出典ー変形性膝関節症における筋機能の問題点:関節神経生理学的側面から/中山 彰一 ー

と述べられています。

つまり、変形性膝関節症などのストレスを受け続けた膝関節ではメカノレセプターは正常に機能していないことが考えられます。

また、変形性膝関節症を呈してから手術まで期間が長い症例ほど術後の機能回復度が低下するのも、こういったことが影響しているのではないかと考えます。

関節原性筋抑制とは

メカノレセプターの存在によって関節運動反射が働くことで、動物は頭で考えるよりも早くスムーズな関節運動ができています。

しかし、このメカノレセプターおよび関節運動反射も身体の状態変化に応じて機能低下が生じます。

その機能低下によって生じるとされているのが、関節原性筋抑制というものです。

関節原性筋抑制とは、関節包圧迫や摩擦・外傷による関節刺激、強いては損傷された関節あるいは炎症性関節に作用する筋力低下といわれています。

その他には、

膝関節包圧迫、前方関節包摩擦・把持、外傷による関節刺激、縫合部の強い締め付けなどの手術操作などと同様に、膝関節水症により、膝伸筋の反射性筋抑制が起こることが知らされている。

出典ー関節神経生理学 Ⅱ部:関節構成体のメカノレセプターと関節原性筋抑制/中山 彰一 ー

と述べられており、この論文で注目していただきたいのが、膝関節水症でも筋抑制が生じるということです。

要するに、膝関節水症は、本来存在しない組織外に水分が存在することで関節周囲組織が圧迫され、関節原性筋抑制を引き起こしていると考えられます。

ヒト血漿を膝関節内に注入した場合の膝伸展挙上時における筋活動を調べた研究によると、

膝伸展筋活動量は低下し、特に内側広筋で著名な抑制が生じた。

出典ーNerve supply of the human knee and its functional importance.Am J Sports Med 1982;329-335/Kennedy JC et al

と報告されています。

また、猫の膝関節へ様々な刺激を加え、反射作用を調べた研究によると、

関節内圧の増加や前方関節包をつまむ操作は、関節受容器を活性化させた。この刺激により、膝伸筋の抑制と膝屈筋の促進がみられた。

出典ーOn the Reflex Effects from the knee joint of the cat.Acta Physiologica Scandinavica 1960;167-174/Ekholm J et al

と報告されています。

これらのことから、関節水症および関節包圧迫刺激が筋抑制を生じさせることがわかります。

さらに興味深いのが、これらの刺激が膝関節に生じた場合、膝伸展筋の抑制と膝屈曲筋の促進を生じさせるということですね。

なぜ、膝伸展筋は抑制され、屈曲筋が促進されるのかというと、解剖学的に膝関節伸展角度と屈曲角度には差があることが関係しています。

一般的に屈曲角度の方が大きな可動域を有しているため、元々膝関節では前方関節包の方が後方関節包より長い造りをしています。

そのため、関節水症や関節包圧迫刺激を受けた際、後方関節包の方が緊張度が上昇しやすく、後方関節包の緊張を緩めるために膝関節屈筋が働くのではないかと考えます。

また、前方関節包を摘む操作によって後方へ滑液が押し流されて生じたなども考えられます。

出典ーMSDマニュアル家庭版ー

術後の関節原性筋抑制

次に、術後の関節原性筋抑制による筋力低下がどの程度の期間生じるのかについてです。

関節切開による半月板切除術における、膝伸筋最大収縮力を術前と比較した研究によると、

術後24時間:80%の抑制

術後3~4日:70~80%の抑制

術後10~15日:35%~40%の抑制

出典ーThe effect of intra-articular bupivacaine on quadriseps inhibition after menisectomy.Med Sci Sports Exer 1983;15:154/Young A et al

と報告されており、他の論文では30日経過しても40%の抑制が生じていたと報告されているものもありました。

しかし、この研究は術後の筋力低下の程度を比較した研究であるため、関節原性筋抑制単独の影響をみているわけではないため、侵襲や炎症などのその他の要因を影響していると考えます。

また、関節水症による関節原性筋抑制の持続時間を調べた研究によると、

60mlの関節水症を30分間持続しても、時間経過に伴う抑制減少は起こらなかった。

出典ーNerve joint of the human knee and its functional importance.Am J Sports Med lO 1982;329-335/Kennedy JC et al

と報告されています。

つまり、関節水症が生じている限り筋抑制は生じてしまうということがわかります。

そのため、関節水症など術後炎症関節に対する筋力増強を目的とした積極的なトレーニングは、あまり効果的ではないといえますね。

しかし、術後の筋力トレーニングは重要です。

なぜかというと、神経系の適応を目的としたトレーニングであれば1~2週間で見込めるため、早期歩行獲得のためには実施していくことは必要です。

また、関節水症や関節周囲組織の滑走性改善を目的とした運動を行うことは、結果的にメカノレセプターへの圧迫刺激を抑制し、関節原性筋抑制を軽減することに繋がると考えます。

これらのことから、術後の筋力トレーニングは健常肢に比べ非効率であるが、長期的にみた筋力増強のためには必要といえ、如何に効率的な筋収縮を促すことができるかがセラピストに求められているともいえます。

関節水症患者における膝伸展位と30°屈曲位における大腿直筋・内側広筋・外側広筋の筋活動量を正常膝と比較した研究によると、

正常膝では、角度変化に伴う筋活動量に変化はみられなかったが、関節水症膝では、屈曲位よりも伸展位において全ての膝伸筋活動量が減少した。

出典ーElectoromyography of the quadri-ceps femoris subjects with normal knees and acutely effused knees.Phys Ther 62:279-283,1982/Strartford P,et al

と報告されています。

上記のことから、膝関節水症や術後炎症膝関節に対する膝伸展筋力トレーニングは、伸展位より軽度屈曲位から開始することで優位に筋収縮を促すことができると考えます。

まとめ

一般的に、損傷後の膝関節では大腿四頭筋の筋力低下が生じやすいとされ、その中でも内側広筋が最も筋力が低い上に筋力低下および筋萎縮が生じやすいといわれています。

今回の関節原性筋抑制の内容を踏まえると、変形性膝関節症では膝伸展位での膝伸展筋活動量が減少してしまうため、膝伸展最終域で特に働く内側広筋が最も筋力低下が生じやすいのは納得ですね。

しかし、この内側広筋は膝伸展筋力を診ていく上で最も重要と言っても過言ではないほど重要な働きをもっています。

そのため、変形性膝関節症に対する筋力低下がなぜ生じていて、その筋力を効率的に改善するにはどのような治療が的確なのか考えることは大切です。

膝だから、とりあえずパテラセッティングや椅子座位での膝伸展運動はやめましょう。

まあ、二つとも重要な運動なんですけどね(笑

それでは、今回はこの辺りでおしまいです!

今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います!

理学療法士 ヨシキでした!

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