膝関節のロールバック機構ってなに?【理学療法士なら知っておきたい膝関節の運動学とPCLの機能解剖】ー膝関節が100°以上曲がる仕組みー

膝関節のロールバック機構ってなに?【理学療法士なら知っておきたい膝関節の運動学とPCLの機能解剖】ー膝関節が100°以上曲がる仕組みー

こんにちは!

理学療法士のヨシキです!

ところで、皆さんは臨床年数を重ねていくにつれ、解剖学・運動学の基本を忘れてないですか?

毎日多くの患者さんを担当して、日々様々な症例、人によって違う症状、何から手をつけていいのかわからなくなってはないですか?

そんな時こそ、基本に戻って解剖学・運動学から勉強し直してみるのはどうでしょう。

臨床経験を重ねていったあなたであれば、学生時代いまいちよくわからなかった授業内容でも、今勉強し直すとそうゆうことだったのか!となるはず(笑

とまぁ、前置きはこのくらいにして、今回は膝関節の基本「ロールバック機構」についてまとめていこうと思います!

ロールバック機構とは

膝関節のロールバック機構とは、膝関節屈曲運動における転がりと滑りの複合運動のこと指します。

この機構は、大腿骨と脛骨の形状に由来しています。

大腿骨は丸みのある凸状の関節面、脛骨は凹状の関節面をしているため、大腿骨が脛骨状で転がりと滑り運動を行うことができます。

出典ー膝の動きを診る 正常な動きと異常な動き:Sportsmedicine 2012 NO.142/石井慎一郎,八木茂則,小川大輔.ー

これがいわゆる「凹凸の法則」になります。

凹凸の法則とは、凹面の関節窩上を凸面の関節頭が動く場合、運動方向と同じ方向に転がり運動が生じ、同時に転がり運動とは反対方向へ滑り運動を行うことで機能的な関節運動を起こすことです。

逆に凸面上を凹面が動く場合は、転がりと滑り運動は同一方向へ生じます。

要するに、大腿骨の転がり運動による脛骨への衝突を防ぐために滑り運動を行い、より深い膝関節屈曲角度を獲得できる構造となっていると言えます。

また、大腿骨のロールバックは非対称な動きをとります。

大腿骨外側顆は内側顆に比べて、脛骨外側顆後縁まで移動するため、結果的には屈曲に伴い大腿骨は脛骨に対して外旋、反対に脛骨は内旋位をとる「スクリューホームムーブメント」が生じることになります。

つまり、凹凸の法則に加えて、軸回旋が生じることで外側顆の方が大きくロールバックすることになります。

その主な要因としては、関節面が内側より外側の方が小さいため、移動距離を補うために外側顆で優位な転がり運動が生じるとされています。

ロールバック機構のメリット

まず、ロールバック機構によって得られるメリットとして、大腿四頭筋の出力増加が挙げられます。

なぜ、大腿四頭筋の出力増加が得られるのかというと、ロールバックによって膝関節はより深い屈曲角度をとることができるため、大腿四頭筋のモーメントアームが増加し、膝関節伸展時の大腿四頭筋力の強度が増加します。

過去の報告からも、筋収縮様式の中で遠心性収縮が最も筋収縮力が増加するとされているため、ロールバックによる屈曲角度の増加が大腿四頭筋にとって重要な働きをしていることがわかりますね。

2つ目は、後方インピンジメントの回避が挙げられます。

どういうことかというと、脛骨の転がり運動のみでは大腿骨内外側顆に脛骨後縁が衝突してしまい、膝関節は100°程度しか曲がらないとされています。

つまり、TKA術後などで100°以上の膝関節屈曲角度が得られない場合は、膝関節周囲の筋や関節包などの軟部組織によってロールバックが制限されている可能性があることが考えられます。

【ロールバック機構によって得られるメリット】

  1. 大腿四頭筋の出力増加
  2. 膝関節後方インピンジメントの回避

PCLとロールバック機構

PCLの機能解剖

膝の安定性は、前十字靭帯(ACL)・後十字靭帯(PCL)・内側側副靭帯(MCL)・外側側副靭帯(LCL)によって支えられています。

その中でも、今回解説したロールバック機構における主役、つまりは膝関節屈曲において主役となっているのが靭帯の中のPCLなんです。

PCLは膝の中で最も太い靭帯であり、脛骨後方深部の後顆間区から大腿骨内顆面上の顆間窩頂に走行しています。(脛骨後外側〜大腿骨前内側に向かう)

また、PCLには2つの線維束が存在しており、前外側線維と後内側線維があります。

それぞれ膝関節の肢位によって緊張度合いが異なり、前外側線維は膝関節屈曲位で緊張し、後内側線維は伸展と深屈曲で最も緊張します。

出典ー坂井建雄,市村浩一郎,澤井直:プロメテウス解剖学 コア アトラス 第3版.2019;433-434.

PCLの2つの役割

PCLの役割は2つ挙げられ、①膝関節後方安定化②膝関節屈曲時のロールバックの補助となります。

【膝関節後方安定化】

膝関節が屈曲を行う際、ハムストリングスの収縮と脛骨のロールバックが生じます。

それによって、PCLは線維が引き伸ばされ緊張することで、大腿骨に対する脛骨の後方滑り(ロールバック)を抑制しています。

そのため、PCL損傷では脛骨が後方へ落ち込むことが多くみられます。

その他の機能として、膝関節屈曲時に生じるスクリューホームムーブメントによって、大腿骨に対して脛骨は内旋を起こしますが、その肢位においてPCLは走行的に緊張の緩みが生じます。

逆に、脛骨の外旋運動に対しては緊張位となるため、制動力を発揮します。

【膝関節屈曲時のロールバックの補助】

今回解説した膝関節のロールバックにおいても、PCLは重要な働きをします。

PCLの役割の1つとして膝関節後方安定化について話しましたが、脛骨の後方への落ち込みを制動しているということでしたよね?

脛骨が後方へ落ち込む際、相対的に大腿骨は前方へ偏位してしまうと言えます。

つまり、PCLは脛骨の後方への落ち込みを制動するとともに大腿骨の前方への偏位を抑制する機能を持っています。

勘の鋭い方はこう思ったはず、

大腿骨の前方への偏位を抑制するということは、機能的には大腿骨を後方へ引っ張っているのでは?

そうなんです!

前方への抑制のために後方へ引っ張ることで、つまりは、膝関節屈曲時のロールバックを補助する働きを持っているということなんです。

PCLはこれだけ膝関節の動きに影響を及ぼしていますが、TKAの術式によっては切除されてしまいます。

ただ、PCLの機能がなければ膝関節は100°程度しか屈曲角度を獲得できないため、ポスト・カム構造という作りを採用することで、人工関節でロールバック機構を再現しています。

まとめ

ロールバック機構についての解説は以上となります。

ロールバック機構というのがあるのはわかったけど、臨床にどう活かせばいいの?と感じた方もいると思います。

正常であれば、ロールバック機構の働きは、自動的に生じてくる生理的な関節運動です。

私自身が実践していることとしては、膝関節屈曲100°に満たない症例に対して、脛骨の前方引き出し+脛骨内旋を誘導しながら膝関節屈曲のROM-exをしたりしています。

また、大腿四頭筋の過緊張によってPCLの緊張は軽減してしまうため、大腿四頭筋の緊張緩和や膝伸展モーメントに影響するアライメントの修正、距骨下関節内反の修正などにもアプローチしています。

何か一つでも当てはまる症例がありましたら、ぜひ実践してみてください😊

それでは、今回はこの辺りでおしまいです。

今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います!

理学療法士 ヨシキでした!