【疼痛抑制メカニズム】運動療法が疼痛減衰に与える効果とは?|ゲートコントロール理論と下降性疼痛抑制機構
- 2024.02.08
- 生理学
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こんにちは!
理学療法士のヨシキです!
今回は、ゲートコントロール理論について復習しつつ、疼痛の原因について深ぼっていこうと思います。
そもそもゲートコントロール理論自体は、考察段階の理論であり、実際に存在するかどうかは立証されていません。
ただ、現象だけフォーカスすると、理論通りに疼痛が消失・軽減しているということは確認されているため、今回の記事を通して、運動することが疼痛軽減に有効であるという裏付けを持って、「痛いからこそ動かないといけない」と自信を持って言えるはず!
ゲートコントロール理論とは
ゲートコントロール理論とは、「疼痛の信号を脳に伝達ずる過程で、脊髄自体で疼痛を強調したり、軽減したりすることができる」という理論となります。
これを踏まえて、疼痛軽減のメカニズムについて説明します。
まず、疼痛刺激が入ると、T細胞に伝達され、Aδ線維・C線維を通ることで脳に伝達されます。
その際、触圧刺激が入るとAβ線維を通過してSG細胞へ伝達されます。
このSG細胞がT細胞に対して疼痛刺激を軽減させるように働きかけることで、脳への痛覚刺激情報が減少します。
これが、ゲートコントロール理論となります。
用語の解説をすると、脊髄後角には、介在ニューロンのSG細胞と中枢への投射ニューロンであるT細胞が存在しています。
T細胞には、触圧覚を伝える太い線維と温痛覚を伝える細い線維の両方から興奮性入力を受けます。
この触圧覚の線維がAβ線維、温痛覚の線維がAδ線維となります。
また、SG細胞では、Aβ線維から興奮性入力を受け、逆にAδ線維からは抑制性入力を受けます。
さらに、SG細胞はT細胞に向かうAβ線維とAδ線維にシナプス前抑制をかけ、T細胞が興奮しないようにするゲートを作っています。
そのため、温痛覚を伝えるAδ線維が興奮すると、SG細胞は抑制されるので、T細胞に向かうAδ線維のシナプス前抑制が抑えられ、ゲートが開いてT細胞が興奮し、疼痛情報が中枢に伝わります。
一方で、触圧刺激が入るとAβ線維から興奮性入力を受け、SG細胞が興奮するので、T細胞の興奮をシナプス前抑制(ゲートを閉じる)によって下げ、疼痛情報の伝達を抑えることができます。
因みに、末梢神経にはA・B・C線維が存在し、A線維は有髄神経でα・γの運動神経とβ・δの感覚神経があります。
B線維も有髄神経で、交感神経・副交感神経の節前線維になります。※詳しい解説は省きます。
C線維は無髄線維で、交感神経・副交感神経の節後線維であり、痛覚を伝える線維となります。
つまり、Aδ線維とC線維が痛覚を伝える神経となりますが、有髄神経であるAδ線維はイタッとなるような速い痛みを感じ、C線維は無髄神経であるためじわじわとしたゆっくり痛みを伝える神経とされています。
この辺の内容は細かい内容なのでさらっと流していただいて結構です笑
ただ重要な所としては、神経には伝導速度というものが存在していて、太い神経ほど伝導速度が速く、細ければ細いほど伝導速度が遅くなります。
これが、ゲートコントロール理論に繋がってくるのですが、触圧刺激を伝えるAβ線維の方が温痛覚を伝えるAδ線維より太いので、触圧刺激の方が伝導速度が速くなります。
痛いの痛いの飛んでけが、理論的に効果的である証明ですね笑
運動と痛覚減衰
ゲートコントロール理論の仕組みが理解できたところで、この仕組みを臨床に活かしていきましょう。
よくあるのは、疼痛部位に対して掌を当てることで疼痛抑制を図るといったものがありますが、リハビリといえばの運動にフォーカスして考えてみましょう。
皆さんは、運動療法後に疼痛が軽減して軽くなったと訴えられる患者さんをみたことがないでしょうか?
それがまさに、ゲートコントロール理論による疼痛減衰の効果かもしれません。
多くのゲートコントロール理論を報告した研究の中で、運動によってゲートコントロールが作用すると報告されています。
また、先ほどのゲートコントロール理論の説明では、疼痛部位と同一部位への触圧刺激の有効性を解説しましたが、最近では、下記のような報告もされています。
等尺性運動によって誘発された痛覚減退効果は、身体の可動部位に限局しているだけでなく、身体の遠位部にも及ぼす可能性がある。
出典ーWu B,Zhou L,Chen C,Wang J,Hu Ll,Wang X.Effects of Exercise-induc Hypoalgesia and Its Neural Mechanisms./Med Sci Sports Exerc.2022 Feb 1;54(2):220-231.ー
さらに、同一の論文の中で、こんなことも言われている。
運動によって誘発される疼痛減退は、脊髄ゲーティング機構を介した侵害受容情報伝達の調節に関連している可能性があり、トップダウン型の下降性疼痛抑制機構に依存している可能性もある。
出典ーWu B,Zhou L,Chen C,Wang J,Hu Ll,Wang X.Effects of Exercise-induc Hypoalgesia and Its Neural Mechanisms./Med Sci Sports Exerc.2022 Feb 1;54(2):220-231.ー
下降性疼痛抑制機構とは、疼痛を感じると脳幹部から神経線維を伝って脊髄内を下降し、過剰な痛みの伝達を抑制する機構です。
具体的には、脳が疼痛を感じると脳幹から出るセロトニン神経とノルアドレナリン神経がそれぞれセロトニンとノルアドレナリンを分泌し、疼痛で興奮している脊髄後角に伝達されることで、疼痛を抑制します。
また、下降性疼痛抑制における脳の働きに焦点を当てた論文によると、
我々は、一次運動野の運動野第6層から視床経路を介して、側坐核に繋がり、神経因性疼痛の負の情動やそれに関連する対処行動を特異的に抑制する経路を予想外に解明した。対照的に、運動野第5層から投射する神経は、痛みの情動を変化させることなく、感覚過敏を抑制するために、脳幹と繋がっている。
出典ーZheng G,Vijan G,Sheng L,et al.Layer-specific pain relief pathways originating from primary motor cortex./SCIENCE 378,6626.2022;1336-1343.ー
つまり、下降性疼痛抑制機構は、疼痛刺激を大脳皮質がキャッチすると、運動野第5層から脳幹に伝わり、セロトニン・ノルアドレナリンが分泌されて、脊髄後角の興奮を抑制することで疼痛を抑制させているということが考えられます。
さらに、運動野第6層からは、視床に伝わることでドーパミンを分泌して、疼痛によるストレスを緩和させる機能があることが考えられます。
これらのことから、運動によって疼痛の抑制が見込めるが、ゲートコントロールに加えて、下降性疼痛抑制機構の働きも加わることで、疼痛抑制と疼痛による感情ストレスの軽減を行なっている可能性があると言えます。
身体的ストレスと疼痛
近年では、疼痛治療を行なっていく上で、心理的側面の評価とアプローチは重要とされています。
また、疼痛・ストレス・抑うつはお互いに増悪因子となっていると言われています。
他には、不活動は慢性疼痛を増悪させることや、ストレスを感じると視床下部CRHニューロンが活性化し、慢性疼痛を増悪させるとの報告もあります。
このように、ストレスというのは疼痛の増悪因子であり、慢性痛の危険因子でもあることがわかります。
では、運動するとストレスに対して、どのような影響を及ぼすでしょうか?
長時間の水泳運動は、神経病変後の後角におけるアストロサイトおよびミクログリアの過活動を逆転させ、これはトレーニング中止後も正常化したままであった。
出典ーAlmeida,Cayo,DeMaman,Aline,et al.Exercise therapy normalizes BDNF upregulation and glial hyperactivity in a mouse model of neuropathic pain./PAIN 156(3),2015 March:504-513.
要するに、運動によって脊髄後角におけるアストロサイトを活性化させ、ミログリアの過活動を抑制することができるということ。
アストロサイトは、ノルアドレナリンから刺激を受け、脳内にカルシウムを分泌する作用があります。
このカルシウム分泌によってうつ病の予防効果があると言われており、ストレス緩和による疼痛抑制が見込めます。
ミログリアは、活性化することで炎症性サイトカインなどを放出してしまうため過活動によって疼痛をさらに助長してしまいます。
しかし、運動を行うことによってミログリアの過活動を抑制し、炎症性サイトカインの分泌を抑えることが可能となります。
その他には、ストレス緩和に有効とされる神経伝達物質の内因性βエンドルフィンが活性化し、慢性疼痛を抑制するなどの効果があります。
また、運動によってセロトニンやドーパミンといった物質が分泌され、このドーパミンによってβエンドルフィンの活性化や視床下部のCRHニューロンの活性を間接的に抑制するなどの効果を発揮します。
つまり、運動は、ドーパミン活性による多幸状態によってネガティブな情動やストレスに伴う慢性疼痛の増悪を緩和することが可能であると考えられます。
まとめ
今回は、専門用語多めで調べてた私も結構疲れました笑
疼痛の増悪や軽減という事象の背景には、こんな複雑なことが起きていますが、要するに運動することで疼痛を抑制することができるということです。
運動することなぜ疼痛が軽減するのか?
この仕組みを少しでも把握できていると、患者指導の際に運動がなぜ必要なのか、的確な説明ができるのではないでしょうか。
ただ、勘違いしてはいけないこととして、誰でも運動すればいいってものではないです。
何が原因で痛いのか?運動の対象であるか?仮に運動が可能だとして、運動後に変化は見られたか?
仮説と検証を繰り返すことがリハビリの根底であることを忘れないように、対象者それぞれに適した治療選択をしていきたいですね。
それでは、今回はこの辺りでおしまいです。
今後も皆様の役に立つ情報を発信できればと思います。
理学療法士 ヨシキでした!
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痛みへの介入が多いので、とても参考になりました。
今後も投稿楽しみにしております。
リガサポさん
コメントありがとうございます!
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