冷やすのは痛みを減らすためだけじゃない?|TKA術後の深部温度と関節可動域の関連【寒冷療法の適応・禁忌と術後疼痛管理について】
- 2022.03.20
- 膝関節
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こんにちは!
理学療法士のヨシキです!
現代の医療では早期リハビリテーションが強く勧められています。
とは言っても、術後は炎症期であるためROM-exや運動療法は積極的に行うことはできません。
しかし、炎症期の過度な安静によって、かえって可動域制限や合併症など引き起こす可能性もあります。
そのため、理学療法の適応範囲は疼痛に応じて決めていくことになると思います。
その疼痛を抑制する手段としてよく選択されるのが寒冷療法です。
そこで、今回はTKAの術後管理の中で創部のクーリングについてまとめていこうと思います。
※膝関節痛の保存療法についてはこちらから見てみてください!(^ ^)⬇️⬇️
TKAと疼痛
人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)は、変形性膝関節症や関節リウマチなどによって軟骨のすり減りや骨の変形・破壊が進行し、膝の疼痛や可動域制限などによって日常生活に支障をきたした患者さんに適応される手術です。
手術手順は以下になります。
- 皮切
- 展開、関節包切開
- 骨切り
- トライアルの挿入
- コンポーネントの挿入
- 関節包の縫合と皮膚閉創
詳しい手術内容については省きますが、TKAに限らず手術では侵襲を伴うため炎症が生じます。
また、侵襲による影響だけでなく、手術に至るまでの過度なメカニカルストレスによって変形性膝関節症発症しています。
過度なメカニカルストレスやそれに伴う慢性炎症は、侵害刺激となって膝関節にある自由神経終末を発火させます。
また、自由神経終末は皮下に多く分布しているため皮切による刺激は著明に発火させます。
結果、外側脊髄視床路を通って大脳皮質体性感覚野や前帯状回、島皮質に投射され、痛みの局在と強度の認識や不快感・不安感などの情動を引き起こします。
変形性膝関節症での慢性疼痛では、感作が引き起こされます。
これは、末梢での侵害受容器の感度が上がったり、末梢神経末端でCGRPなどが放出され神経性炎症が生じます。
一方、中枢神経性感作では、下行性疼痛抑制系機能低下が生じたり、アロディニアによって触刺激で痛みを感じるなどの関連痛が引き起こされます。
これらの疼痛に一貫して関わってくるのは、神経ですよね。
当たり前のことですが、神経伝達を抑制することが疼痛抑制には有効になります。
寒冷療法の適応・禁忌
寒冷療法とは、治療の目的で寒冷を局所的にあるいは全身的に応用するものです。
寒冷療法は、血管収縮による血流低下、血管透過性低下や一次侵害受容ニューロンの興奮・伝導の低下により、炎症や疼痛の軽減に有効とされています。
理学療法の目的は、対象の機能動作の改善・回復です。
しかし、炎症による疼痛が著しく長引く場合は、CGRPが放出され慢性疼痛が引き起こされ、関節可動制限や筋出力低下・代償動作の定着が引き起こされます。
結果的にリハビリの進行の妨げになってしまいます。
そのため、寒冷療法などの物理療法による疼痛管理は有効とされています。
【適応】
- 急性炎症
- 局所の疼痛
- 有痛性筋スパズム
- 中枢性神経疾患の痙性
- 神経・筋の反応抑制および促進
【禁忌】
- 血管・循環器疾患を有する者
- レイノー病
- 寒冷アレルギーを有する者
- 感覚障害のある部位
- 心臓及び胸部への実施
- 寒冷に対して拒否的な者
術後の膝周囲組織温度とROM
以上を踏まえて、今回の本題であるTKA術後の深部温度と関節可動域の関係について解説します。
多くの病院で、TKAの術後炎症を抑えるために寒冷療法が適応されています。
そのため、パスとして適応されているからなんとなくアイスパックを施行しているというセラピストも少なくないのではないでしょうか?
寒冷療法は、前項でも述べたように疼痛抑制に有効です。
しかし、疼痛抑制を行うことだけが寒冷療法の目的ではありません。
結論から述べると、TKA術後の深部温度の低下は膝関節可動域の回復に有意な相関が認められています。
内側アプローチによる片側TKAを施行された変形性膝関節症患者28名を対象に、術後の膝周囲の深部温度変化とROM及び10m歩行テストを行った研究によると、
術後14日目の深部温度変化と膝ROM回復量に有意な相関が認められた。
術後深部温度が2℃以上上昇した手術膝はROM回復が不良であった。また、深部温度の変化は、術後14日目の10m歩行テストの改善度や1年後のROM回復量との関連はみられなかった。
出典 ー Alterations in deep tissue temperature around the knee after total knee arthroplasty:its association with knee motion recovery in the early phase./ Misaki UEYAMA etcー
と報告されている。
このことから、術後の深部温度の変化が膝関節ROMの回復量に影響を与えることが示唆されます。
しかし、10m歩行テストや1年後のROM回復量との関連が関連がなかったとされます。
これは、歩行は関節可動域以外にも複数の要因が合わさって行われる複合運動であるため深部温度だけでなく、筋力・バランス・運動感覚などに対するその後の運動療法が影響すると考えます。
1年後のROM回復量については、寒冷療法はあくまで急性炎症に対して適応しており、入院は長くても1ヶ月程度と考えると、在宅生活習慣による影響の方が大きいのではないかと考えます。
それを踏まえても、術後14日目でのROM回復量に影響を与えているということは、術後の早期リハビリテーションの進行の手助けになっていることは確かです。
また、寒冷療法1時間行った膝と行わなかった膝では、関節内温度が平均6℃の差があったとされ、運動療法後の寒冷療法を怠った場合、翌日の関節可動域制限が誘発されやすいのではないかと考えます。
そのため、運動療法効果を効率よく与えるためにも、術後管理として寒冷療法は積極的に実施していくべきではないでしょうか。
注意点としては、アイスパックを患者さん自身で実施していただく際に多くの患者さんが膝関節下にアイスパックを当てているところを目にします。
膝関節下には膝窩動静脈や後脛骨筋動静脈、腓骨動静脈が走行しており、膝窩静脈・後脛骨静脈・腓骨静脈はDVTの好発部位です。
そのため、膝関節下に当てていると上記の静脈の血流低下が生じ、浮腫の増悪だけでなく血栓の発生を助長してしまう恐れがあるため、アイスパックは関節上部から当てましょう。
まとめ
多くの術後患者さんには、投薬による痛み止めが適応されますが、疼痛の程度は患者さんによって様々です。
そのため、疼痛原因を正確に評価しアプローチを行うことが患者さんニーズに応えるために重要です。
今回解説した寒冷療法も数あるアプローチ方法の一例であり、全ての患者さんに有効というわけではありません。
中には寒冷療法によって症状が悪化する方もいるかもしれません。
そのため、寒冷療法だけではありませんが、この治療が有効とされているから選択するのではなく、なぜ有効とされているのか把握して選択することが治療効果の引き上げやスキルアップのために必要と思います。
それでは、今回はこの辺りでおしまいです!
今後も皆様の役に立つ情報をお伝えできればと思います!
理学療法士 ヨシキでした!
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